SONY TR-821

高周波増幅(同調付き)搭載 中波/短波2バンド 8石スーパー

 1963年の製品と思われる.中波は530~1605kHz,短波は3.9~12MHzの2バンドの高感度・高級ラジオ.3連エア・バリコンを使ってアンテナ入力/高周波増幅出力/局発周波数を同期しながら同調を行うラジオ.フロントパネルに「RF SUPER SENSITIVE」と誇らしげに記載されている.これは同時期のSONY製の高周波増幅(同調付き)の機種に記載されている.これは当時の通信用受信機に搭載された機能で高性能の証で「高1中2」(高周波増幅1段・中間周波増幅2段)と呼ばれた構成.

SONY TR-821
革ケースを取り付けたTR-821
SONY TR-821
TR-821のリアパネル


 選局ダイヤルの内側にファイン・チューニングのつまみが設けられている(局発周波数のみの可変).これによって短波の選局も容易としている.周波数表示は容量直線形形のバリコンを使用しているために周波数が高くなると間隔が狭くなる.しかしファイン・チューニング機構によって短波の選局も容易に行うことが可能.本機は一部のIFTに2つの同調回路をいれた複同調のものを使用して選択度を上げている.

SONY TR-821のファインチューニング
同調は外周がメインダイアルで内周がファインチューニング

スーパーヘテロダイン方式とイメージ妨害-
 中波/短波のスーパーヘテロダイン方式は構造的にIF周波数×2+受信周波数の妨害を受けやすい.例えば690kHzを受信する場合,1600kHzの妨害を受けやすいといえる[690+(455×2)=1600kHz].中波の場合は問題となることは少ないが,周波数が高くなるほどその影響は無視出来なくなる.アンテナ段の同調回路でイメージ妨害(影像妨害)を押さえるが,短波では受信周波数に対して(受信周波数+910kHz)がイメージ妨害として入感してしまう.
 この対策の1つが,同調回路を付加した高周波増幅を使用することとなる.しかし通常のスーパーヘテロダイン方式に対して1段多い3連バリコンが必要でコストが高くなる.しかしアンテナ入力段と高周波増幅出力段それぞれで受信周波数以外の信号を排除できるのでその性能は高い.第二次世界大戦中の軍用受信機や通信形受信機に用いられた方式.

SONY TR-821の3連エアバリコン
本機の容量直線形形 3連エア・バリコン
SONY TR-821の選局機構
同調機構はギアドライブで周波数表示を糸掛け式としたハイスペックなもの
中央はファインチューニング用の小容量バリコン

-TR-821の性能-
 SSGなどで1540kHzの信号を発生し,630kHzを受信すると1540kHzも受信される.本機ならその妨害を感じることはない.周波数の高い10MHzでは10.91MHzの信号が大きく減衰される.さすがは高周波増幅(同調付き)と感じる.
 短波帯にも対応した長いフェライトバー・アンテナの効果で,ラジオ日経などならロッド・アンテナ無しで入感する.感度は高く周波数の直読ができないことを除くと,現在でもBCLに十分に使える性能を持っている(操作すると楽しい).

-その他の機能-
 単2電池×3本(4.5V)音質調整とダイヤル照明ボタンがある.バンド切り替えはリアパネルにあるが,特に問題はない.側面に録音端子/2つのイヤホン端子があり,見た目は旧規格のイヤホンに見えるが,φ3.5mmのミニプラグ.外部アンテナ端子はない.音質は了解度が高く長く聞いていても疲れないもので音量も十分.

SONY TR-821のイヤホン端子
録音端子とイヤホンはφ3.5mmのミニプラグ

-購入時の状態-
 これは動作未確認品として出品されていたもの.革ケースが付属しており,60年近く経過したものでは状態が良いといえる.ただし,電池接点が電池の液漏れで腐食していた.

修理と調整-
 電池接点を磨くことと可変抵抗のガリ対応で基本動作はOK.動作確認後にケースから基板を取り出してケースの掃除を行ってから調整を行う.基本は中波/短波 2バンドラジオであるが,同調回路付きの高周波増幅があるのでトラッキング調整は3段階となる.高性能を発揮させるべく慎重に調整を行う.

SONY TR-821の内部
本機の内部
3組(合計6個)のトリマ・コンデンサが同調回路付き高周波増幅の証

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