Jelectro SWL-59

-Hallicrafters S-38シリーズについて-
 1950年代,安価な通信型受信機としてHallicrafters S-38シリーズが米国で人気だった.これは日本でも通信型受信機のデザインに大きな影響を与えた.S-38シリーズはトランスレス5球スーパーに後述のスプレッド・ダイヤルを装備し,0.54~32MHzまでを4バンドで受信可能としたもの.モールス信号の受信用にBFOとS-38CまではANL(Automatic Noise limiter,信号振幅を制限してパルス性ノイズを軽減する機能)が搭載されていた.

Hallicrafters S-38D

-レアなSWL-59-
 これは1959年頃にトヨムラがJelectroブランドで販売した通信型受信機で,Hallicrafters S-38DにSメータを追加した外観.キャビネットは木製でS-38Dより1回り大きい.店主はSWL-59をオークションサイトで見かけたことはなくレアな機種と思われる.
 SWL-59の機能はS-38DにANLとSメータを追加したもので,受信範囲を若干広くして0.54~35MHzとしている.バンド分割はS-38Dとほぼ同じで,バンド1(0.54~1.6)/バンド2(1.6~5MHz)/バンド3(5~14MHz)/バンド4(13~35MHz)となっている.SWL-59はバリコン・プーリを複数使用することでダイヤルの減速比を高めて短波帯の選局を容易としている.

SWL-59のシャーシ
4バンドに分割された周波数表示とスプレッド・ダイヤルのスケール表示
SWL-59のシャーシ
4バンドに分割された周波数表示とスプレッド・ダイヤルのスケール表示

-SWL-59は電源トランス付き-
 本機はトランスレス5球スーパーと構成は同じで,使用されている球は12BE6/12BD6/12AV6/35C5/35W4の5本.しかしSWL-59は電源トランスを装備することでシャーシを電源ラインから絶縁している.イメージとしては1対1の電源トランスを内蔵したもの.
 電源トランスの電圧を測ると1次側は100Vで,2次側は110Vと130Vが出力されている.110Vをヒータ・ラインの電源として使用し,130Vは整流管の35W4のカソードに接続されている.そのためSWL-59のB電圧は普通のトランスレス5球スーパーより数10Vほど高くして全体のゲインを稼いでいる.Brimerの35W4データシートにはカソードとプレート間の最大電圧は240Vと記載されているので,こうした使い方もあるのかと勉強になる.

電源トランスを装備するSWL-59
電源トランスを装備するSWL-59

-スプレッド・ダイヤル-
 スプレッドとは拡大の意味で,スプレッド・バリコンと呼ばれる容量の少ないバリコンをメイン・バリコンに並列接続することにより電子的に周波数スケールを拡大する機能.普段は最小容量にセットすることで(0の位置がホームポジション)メイン・ダイヤルが周波数スケールに合致する
 スプレッドの使用例としてアマチュア無線の周波数帯(7~7.2MHz)を拡大してみる,スプレッド・ダイヤルを0の位置にして,メイン・ダイヤルを7.3MHz(本機は米国向けだったかも知れない)にセットする.その状態でスプレッド・ダイヤルのスケール位置を上げていくことで受信周波数が徐々に低下する,これで込み入った周波数帯でも選局が容易となる.
 ファイン・チューニングと呼ばれる機能は,局発バリコンに小容量のバリコンを並列接続して短波帯の選局を容易にしたもので周波数の変化幅が少ないもので,アンテナ側の調整がないもの.

スプレッド・ダイヤルは0位置が定位置
本機で7MHz帯を拡大するにはメイン・ダイアルを7.3MHz付近に合わせる
スプレッド・ダイヤルは0位置が定位置
本機で7MHz帯を拡大するにはメイン・ダイアルを7.3MHz付近に合わせる
スプレッド・スケールの0位置はスプレッド・バリコンは最小容量となる
この状態でメイン・ダイアルは周波数表示に合致する
スプレッド・スケールの0位置はスプレッド・バリコンは最小容量となる
この状態でメイン・ダイアルは周波数表示に合致する
スプレッド・ダイヤルを回すと徐々に受信機周波数が低くなる
このスプレッド・ダイヤル位置で受信周波数は7MHz
スプレッド・ダイヤルを回すと徐々に受信機周波数が低くなる
このスプレッド・ダイヤル位置で受信周波数は7MHz
スプレッド・ダイヤルの最大位置はスプレッド・バリコンが最大容量となる
スプレッド・ダイヤルの最大位置はスプレッド・バリコンが最大容量となる

-スプレッド・ダイヤルは周波数直読機能に進化する-
 マーカ発振器などでスプレッドを行うメイン・ダイアルの周波数を正確に校正し,スプレッド・ダイヤルの周波数変化幅を把握すれば大体の受信周波数を読み取ることも可能.こうした周波数直読機能は通信型受信機にはTRIO 9R-59Dなどに搭載され,1970年代の中頃にはBCLラジオにも搭載されることになる.
 方式は異なるが軍用や通信用受信機では,戦前に10kHz単位での周波数直読は実用化され戦後では1kHz単位での周波数直読が可能となっていた.スプレッド・ダイヤルによる周波数読み取りはコストが制限された民需に向けた技術だったと思う.

-SWL-59の実力-
 中波から12MHzくらいまでは調整の行き届いたトランスレス5球スーパーとほぼ同じ感度と選択度といえよう.5球スーパーの性能は侮りがたく,きちんとしたアンテナを使えば現在でもラジオとしては十分な性能.ただ14MHzより高い周波数ではやはり感度が低く,イメージ妨害も気になってしまう.これは構造的に仕方がないことだろう(シングル・スーパーでは高い周波数のイメージ妨害は避けられない).選局ダイヤルの減速比も高く,ダイヤルスケールも大きいので選局はとてもしやすい.
 選択度は5球スーパーとしては良い方でコンディションが良ければ,スプレッド・ダイヤルを使ってアマチュア無線の交信を聞くこともできる.こうした簡易型のBFOでは周波数純度が低いのでCWやSSBを復調すると濁った音になるのは仕方ないこと.現代の無線機の操作性とは比較にならないが,同調操作は煩雑でコツが必要.しかしこうした原始的な機能でSSBを復調してみるのも楽しい作業とは思う.

-入手と修理-
 某社の倉庫整理のお手伝い中に発掘し粗大ゴミとしていただいたもの.発掘時はネズミの排出物などでキャビネットとシャーシはボロボロだったが,シャーシの裏面は比較的奇麗だったので修理を実施したもの(ほぼ作り直しに近い).ダイヤル糸なども朽ちており,この張り替えだけでも頭を悩ました.さらにはシャーシ内部も複数の部品不良があった記憶がある.キャビネットは店主が尊敬している木工名人に修復を依頼して奇麗に仕上げて頂いた.SWL-59は店主のラジオ収集癖に火を付けてくれた罪なラジオ.こうしたラジオはセオリー通りに調整が出来るので,調整作業も比較的楽といえる.

シャーシの裏面は比較的奇麗だったので修理を実施した
シャーシの裏面は比較的奇麗だったので修理を実施した

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