-SOUND750 GS-
1970年代初頭に東芝は「SOUND750」シリーズを展開していた.1973年にSONYからスカイセンサー5800が発売され,累計生産台数が100万台以上ともいわれる大ヒットとなった.
それに対して東芝の対抗機種と思われるのが1974年頃に発売された「SOUND750 GS」(RP-775F).RP-775Fの基本は中波/短波(3.8~12MHz)/FMの3バンド機で,短波帯の5つのスプレッド(拡大)・ダイヤルを設けて,短波帯5バンド+中波+FMの7バンドとしていた.
スプレッド・ダイヤル機能以外の機能は,メータはチューニング(無信号時は電池残量を示す)/VUをスイッチで切り替えるトリプルメータとFM AFC ON/OFF・MW DX/LOCALの切り替えスイッチ.音質調整は高音/低音のセパレート・タイプで時の2万円前後のラジオでは標準的なもの.RP-775Fは後面に外部アンテナ端子が装備されているが,BFOはない.
-ツインのフィルム・ダイヤル-
・スプレッド・ダイヤルのホームポジョン
メインとスプレッドとして2つのフィルム・ダイヤルを持つSOUND750 GSは見た目のインパクトが大きい.このスプレッド・ダイヤルを最も高い周波数にセットすることでメイン・ダイヤルの周波数スケール(3.8~12MHz)が有効となる.
・スプレッド・ダイヤルの校正(Calibration)
5つのバンド・スプレッドは周波数帯によって「SW1-5」のバンドを選択をする.スプレッド・ダイヤルを各バンドの「CAL」の位置にセットして,メイン・ダイヤルをSW1-5のマーキングされている位置で,CALスイッチでメイン・ダイヤルにてゼロビートを取る.この校正を行うことでスプレッド・ダイヤルの周波数表示が使える.
スケール下限 | スケール上限 | 校正周波数 | |
SW1 | 3.9MHz | 4.1MHz | 4.095MHz(455kHz×9) |
SW2 | 5.9MHz | 6.2MHz | 5.915MHz(455kHz×13) |
SW3 | 7.0MHz | 7.3MHz | 7.280MHz(455kHz×16) |
SW4 | 9.5MHz | 9,8MHz | 9.555MHz(455kHz×21) |
SW5 | 11.7MHz | 12.0MHz | 11.830MHz(455kHz×26) |
・スプレッド・ダイヤルの有効性
固体によって異なると思うが,本機ではスプレッド・ダイヤルのCAL位置付近はほぼ正確で(±0~5kHzほど).CAL位置から周波数が離れると(±10~30kHzほど)ズレるが,目安としては十分と思う(この追い込みはスプレッド用のフィルムダイヤルを分解しての調整が必要と思われる).家庭用ラジオ(2万円前後の家電ルート品)で,この分解能のスプレッド・ダイヤルを搭載出来たことは素晴らしい功績と思う.ただ想像するにこの機能を使いこなせる人は多くはなかったと思われる(家庭用ラジオ版の9R-59Dに近いイメージ).
5つのバンドに分けて周波数を拡大(300kHz幅)しているため,12MHz付近の選局も周波数スケールが拡大されるため楽に行える.SONY ICF-5800やSANYO RP 8700などのダイヤル減速比を変えるタイプでも周波数の読み取りが困難なので,このスプレッド・ダイヤルは大変有効だと思う.しかしスプレッドを出来るバンドが決まってしまうのが残念.
5.9MHz付近を表示(-0.5kHzほど)
6.17MHz付近を表示(-30kHzほど)
7.02MHz付近を表示(+20kHzほど)
7.29MHz付近を表示(-10kHzほど)
9.495MHz付近を表示(-5kHzほど)
9.78MHz付近を表示(-20kHzほど)
11.695MHz付近を表示(-5kHzほど)
11.98MHz付近を表示(-20kHzほど)
-気になる感度-
本機も非同調のRF増幅回路が搭載されていると考えられ全体的な感度は高く,中波・FM・短波を含めて同時期の短波ラジオと同等と感じる.使い方をマスターできれば,スプレッド・ダイヤルを活用することで込み入った周波数帯の選局はとても楽にできる.
本機もIFが455kHzのシングル・スーパゆえ残念ながら短波のイメージ妨害(受信周波数の+910kHz)は避けられない.当時のラジオの音質は意外とよく,本機も同様.
-455kHzマーカーについて-
RP-775Fは短波帯の5バンドのスプレッド・ダイヤルを設けている.矩形波は基本周波数の整数倍の高調波を生成し周波数マーカとして古くから活用され,RP-775Fのスプレッド・ダイヤル校正(CAL)周波数は,455kHzの掛け算で生成される周波数で行う.例えばSW5の校正周波数は11.830MHz(455kHzの26次高調波)となる.
本機のゼロビートは巧妙な仕組みで,[校正信号と(局発周波数-455kHzの受信信号)]の周波数差をビート音として発生させる,455kHzを「骨までしゃぶる」方法.限られたコストでスプレッド・ダイヤルの校正手段を実現した開発者には改めて敬意を表したい.
CALスイッチを入れると455kHzの間隔で校正周波数が観測される
-修理と調整-
動作未確認品を購入したものの,残念ながら金属パネルが腐食して一部のレタリングなどが剥がれていた.一通りのメインテナンスで電源投入はでき,せっかくのスプレッド・ダイヤルを生かすべく調整を行った.取扱説明書をはじめ技術資料がないことで,本機の455kHzマジックを勉強するきっかけとなった.
本機のメインテナンス性は決して良くはなく,フィルム・ダイヤルを分解すると店主には元に戻せる自信はない.しかもフィルム・ダイヤルを外さないと調整できない箇所がある.
RP-775Fの短波帯調整はスプレッド・ダイヤルがホームポジョンの状態でメイン・ダイヤルの調整がされていることが前提.校正周波数は11.83MHz(455kHzの26次高調波)でSSGの信号と「鳴き合わせ」で調整を行った.本機の調整には最低でも1kHz単位で正確な周波数を出力できるSSG(標準信号発生器)が必要,さらにスプレッド・ダイヤルとマーカーの原理を理解しないと難しいと思う.