-ラジオの電源-
真空管やトランジスタなどの半導体の増幅回路には直流電源が必要なのは知ってのとおり.トランジスタ・ラジオは電源電圧が低く,さらに消費電流が少ないため乾電池で電源を十分にまかなえる.
真空管はヒータ(直熱管はフィラメント)の通電が必要.多くの球のヒータは交流でも動作する.さらに真空管の動作には数10~250V程度の直流電圧(B電源)が必要となり,この電圧をAC100Vから生成している.AC100Vから内部の動作に必要な電圧に変換している部品が電源トランス(変成器)で,真空管ラジオではヒータ用の6.3VとB電圧用の250Vの生成が一般的.
電池管ラジオや昭和初期のラジオでは,フィラメントとB電源を電池から供給している.しかしランニングコストが高いので一般的ではない.
-プラスチックボディーの真空管ラジオ-
大きくて重い電源トランスはその価格も高く,これを省くことでラジオの値段も下げることができる.戦前は物資を節約するためにトランスレスラジオが生産され,戦後では1950年代後半からのプラスチックボディーの真空管ラジオはほとんどトランスレスラジオとなっている.これにより小型軽量で安価なラジオが大量に普及した.多くの5球スーパーはトランスレスタイプとなる.
ちなみに電源トランスを使用した5球スーパーは木製の大きめなキャビネットに内部が格納されているものが多い.B電源に250Vが使えるため出力を多めにできることと真空管のヒータ用電源を用意できるため,ヒータ電圧が6.3Vの真空管が使える.ダイヤルなどのイルミネーションにも自由に6.3Vの電球が使えるのでイルミネーションの豪華なラジオも生産されていた.
-電源トランスを使用するメリット-
内部回路は別として,利用者の最大のメリットはシャーシ(個別部品は別)に触れても感電しないこと,これは電源トランスの1次側(AC100V)と2次側(内部回路用電圧)が絶縁されていることによる.そのためラジオのシャーシに触れても感電することはない(回路が正常ならば).
-トランスレス・ラジオは感電注意-
トランスレス・ラジオの電源部の回路をみるとAC100Vの片側はシャーシに直接接続されている.シャーシに触れることはAC100Vコンセントの片側に触れることと同じこととなる.トランスレス・ラジオの使用上の注意は「内部に触れると感電の危険がある」こと.イヤホン端子の多くはハイインピーダンス・タイプでクリスタル・イヤホンを接続することが想定されおり,イヤホン端子のアース側はホット(グリッド側)となっており感電対策はきちんとされている.
そのためにシャーシはプラスチックボディーで絶縁され,選局や音量などのつまみは感電を防ぐようになっており通常の使い方では問題なく使える.アンテナとアース端子はコンデンサで感電防止対策がされている(回路が正常ならば).
-トランスレス・ラジオの外部入力端子-
PU端子(入力インピーダンスは数100kΩと高い)が用意されているラジオがある.トランス搭載型なら問題は無いが,トランスレス・ラジオでは感電の危険性がある.この端子はクリスタルピックアップを使ったレコードプレーヤに接続するもので(信号経路は電源系から隔離され感電対策がされている),このグラウンド側はシャーシに接続されている.
ここに携帯電話などの音源を接続するとグラウンド側に接続された部分はACコンセントの片側に触れていることと同じで感電の危険がある.最低でも各端子に耐圧が100V以上のコンデンサを直列に接続するなどの感電対策が必要.
-トランスレス・ラジオの修理-
修理をする方は感電リスクを十分に承知していることと思う.もしその意味が分からないなら決して内部には触れるべきではないでしょう.修理の留意点はアンテナやアース処理と各操作部の感電対策で,これらの回路はオリジナルを尊重し無作為な我流の改造は避けるべき.
-トランスレス5球スーパーのパイロットランプ-
整流管の35W4のPL用タップを使った,パイロットランプには6.3V/150mA以外のものは使えない(これは交流で点灯しており,同一電流が35W4の4-6ピン間を流れるため).またこのパイロットランプが切れているものは早めに同一規格のパイロットランプに交換が必要.切れたまま放置すると35W4のヒータを痛めることになる(トランスレス5球スーバーの各真空管のヒータは直列接続されている).
ここのLED化は35W4のPL用タップ電流(4と6ピン間)を150mAを確保して製作する必要がある.米国でも多く生産されたトランスレス5球スーパーは絶妙なバランスで動作している(この構成は米国で考案され日本でも広く使われたもの).