三菱 5P-220の修理例(調整編)

※ これはあくまで店主の事例です.真空管ラジオのメインテナンスは感電のリスクがあり,それなりの経験が必要です ※

スーパーヘテロダイン受信機の調整-
 使っている素子が真空管であれトランジスタであれスーパーヘテロダイン受信機の性能は調整によって発揮される.5球スーパーの中波なら2個のIFTと,発振コイル/発振側バリコンのトリマ,アンテナ・コイルとアンテナ側バリコンのトリマの6箇所(短波付きならさらに調整箇所が増える).
 中波なら455kHzと500~1600kHz程度をカバーする30%のAM変調(400Hz)を掛けられる試験発振器(テストオシレータ)は必須.アンテナと発振器を結合には疑似アンテナ回路と専用ループ・アンテナがあると良い.テストオシレータやSSG(標準信号発生器)が手元にないのなら,調整は控えた方が賢明だろう.

ラジオのAGC-
 ほとんどのスーパーヘテロダイン受信機はAGC(Auto Gain Control)によって,受信信号の変動があっても一定の音量に制御されている.これは強い受信信号の場合,発振混合段とIF段のゲイン(増幅利得)を落とす回路.
 調整を行う場合はAGCが作動しない信号強度まで試験発振器の出力を絞る必要がある(この強度は試験発振器とアンテナの結合によって異なる).ラジオの受信感度は意外と高いので,漏れ電波がほとんど発生しないSSGが便利.

-アンテナとの結合-
 アンテナ端子を持つラジオと試験発振器の結合には疑似アンテナ回路が必要とされている.その後フェライトバー・アンテナ内蔵のラジオが主流となり,そうしたラジオでは専用ループ・アンテナを使うこととなっている.厳密な調整(JISで規定されていた)や感度の測定にはこれらがないと作業はできない.
 しかし実用的な調整なら試験発振器の出力(出力インピーダンスは50か75Ω)にワニ口クリップ線でループ・アンテナを形成してアンテナ線の近くに置くと結合が可能となり(フェライトバー・アンテナならその近く),信号強度は試験発振器で調整可能なので調整には問題ない.

-5P-220の調整例-
① IFTの調整
 SSGからの455kHz(400Hz 30%変調)を結合して信号音を受信し信号音を認識できる状態まで試験発振器の出力レベルを下げる.
 この状態で音量が最も大きくなる位置にIFTを調整する.アナログ・テスタをACレンジで接続してレベルを視認しながら調整すると分かりやすい.真空管ラジオのIFTは複同調(同調回路が2つ入っている)なので上部と下部それぞれのコア位置を調整する(5P-220は第1 IFTのみ複同調).この調整が終了次第,キャビネットにシャーシを取り付ける.

真空管ラジオのIFTは複同調なのでシャーシ裏面のコア調整も忘れず行う
真空管ラジオのIFTは複同調なのでシャーシ裏面のコア調整も忘れず行う
水洗い後に乾燥させたキャビネット
水洗い後に乾燥させたキャビネット
清掃前の内部
清掃前の内部
清掃したキュビネットにメインテナンスを実施したシャーシを取り付ける
清掃したキュビネットにメインテナンスを実施したシャーシを取り付ける

② 受信最低周波数をスケールに合わせる
 本来この調整は発振コイルのコア位置の調整かパディング・コンデンサで調整を行う.5P-220は中波/短波ともに発振コイルは無調整タイプなのでこの調整はできない.本機は短波優先で調整をする構成と思われ,バリコンの最大容量時に短波でおよそ3.8MHz/中波で530kHzであることを確認(不具合がなければ,おおよその範囲で合う).こうした無調整タイプでは完全に受信最低周波数をスケールに合わせるのは難しい.

② 受信最大周波数をスケールに合わせる
 5P-220では最初に短波を合わせた.これはOSCバリコンのトリマで5MHzと10MHzにスケールが合うように調整する.短波を調整後に,中波の800kHzと1100kHzにスケールが合うようにトリマ(左端)調整する.この調整でダイヤルの周波数スケールと指針がほぼ一致させることができる.
③ 最大感度に調整
 5P-220では無調整タイプのアンテナ・コイルなのでトリマのみとする.最初に短波をトリマ(右端)調整する.ここではは5/7/10MHzの3点で平均的な感度となるように調整.中波をトリマ(中央)調整し,700/1300kHzが平均的な感度となるように調整して終了.

短波5MHzの受信位置
短波5MHzの受信位置
短波10MHzの受信位置
短波10MHzの受信位置

-5P-220の実力-
 5球スーパーとして平均的な感度と思う.首都圏の木造家屋なら,1mほどのアンテナ線で十分実用となり,短波も昼のラジオ日経は十分に聞くことができる.音質も平均的なものだが疲れない音質なので,BGMとして最適.
 
-トランスレス5球スーパーの課題-
 店主はそれなり台数のトランスレス5球スーパーに触れたが,その多くは音量を絞りきることができなかった.これは12AV6が高ゲインかつ入力インピーダンスが高いことも原因の1つと考えている.
 500kΩの可変抵抗を交換すれば直るが,ローレット軸で電源スイッチ付きのものはなかなか入手が難しい(機種によって軸の長さも異なる).そこで音量調整のホット側に500kΩの半固定抵抗を付けてAF信号レベルを絞ってみた.これで強い放送局も1人で静かに聞くことができる.しばらく実証実験としたい.
メインテナンスには2日(正味18時間ほど)を要した.ここまで手間を掛けるのは趣味だからだろう.

5球スーバーでは音量を絞りきれない個体が多い
可変抵抗の交換が必要だが,前段でゲインを落として様子見をしてみる
5球スーバーでは音量を絞りきれない個体が多い
可変抵抗の交換が必要だが,前段でゲインを落として様子見をしてみる